私費の苦悩、社費の苦悩

私費で行くか、社費で行くか。これは日本人MBA受験生の永遠のテーマじゃないだろうか。こんなところで下手なことを言えば、読者の半分の人を敵に回すだろうし、下手に取り繕うと残りの半分も失う。必然的に、僕は慎重になり、僕の書く文章は精彩を欠く。(いや、もともと精彩などなかったのだ。と、皆が愛想を尽かす)

私費学生が目の当たりにするのは、社費学生の圧倒的な資金力の差だ。いくら志が高く、二年間清貧の思想を貫くと誓っていたとしても、まるで「王様と乞食」のような格差を見せられると、徐々に卑屈になり、人間が捻じ曲がる。なるべく口に出すまいとしていたが、僕は会社派遣のクラスメートが住んでいた立派なアパートが羨ましかったし、IKEAで新品の家具を山ほど買い占めるのが羨ましかったし、大きな液晶テレビやピカピカのSUVが羨ましかった。休みになれば飛行機でアメリカ大陸を旅行しまわったり、カリブ海にクルーズに行ったり、週末になると寿司レストランに行けるのも羨ましかった。あー、すっきりした。

私費学生を苦しめるのは、金だけの問題ではない。MBAとはいえ、所詮は無職。プログラムが始まったその瞬間から、「卒業後の不安」が膨れ上がる。書類選考にもれ、面接に破れ、待っていた電話がかかってこない日々。やつれた顔でキャンパスを歩くと、久しぶりに出会う社費君。日々のゴルフ、あるいはフロリダでのバケーションで日に焼けた顔に満面の笑顔。「うちの人事がさっぱり使えなくて、帰国後のポストがいまだに決まんないんだよね。これじゃ卒業旅行の予定も立てられないし、ほんと、勘弁してほしいよ。」

もちろん、社費には社費の苦悩がある。入学してまず直面するのは、自分に貼られた「カンパニー・スポンサード」というレッテル。私費留学=無職がマジョリティのMBAにあって、クラスメートは、二年間同じ釜の飯を食い、共に貧乏に耐え忍び、やがて一流企業の高給ポストの内定を勝ち取る戦友のようなもの。社費留学は、異質な存在にみなされ、最初から「オレたちとは違う」と線を引かれてしまう。クラスで素晴らしい発言をしても、間違った発言をしても、テストが一番でも、ビリでも、「あ、彼は社費だから。」

クラスが卒業ムードになり始めたころ、人事から帰国後の配属についての説明を受ける。同じ部署、同じ上司、同じ仕事、同じ給料。思い出す二年前。引き戻される現実。MBAの二年間なんて、所詮は非現実だったんだ。重い足取りでクラスに向かうと、アメリカ人のクラスメートの輪の中で、私費君が戦果を称え合っている。「外資系の東京オフィスでシニアアナリストのポジションなんだけど、最初はアメリカで六ヶ月の研修なんだよね。」「ニューヨークの会社からオファーがあって、引越しの準備で忙しいんだ。」やがて就職課から、内定状況速報が全学生に配信される。「卒業後の平均年収、○十パーセントアップ。契約時ボーナス平均○百万円。」

さあ、あなたはどちらの道を選びますか?

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *