いざ出願

僕がMBAを取ろうと決めたのは、もう五年くらい前のことだろうか。

学生時代の友人(「学生時代からの友人」ではない)がヨーロッパでMBAを取って帰ってきたので、それじゃあ久しぶりに飲もうか、ということになった。新宿で待ち合わせ、何故だか覚えていないが、今では思い出横丁と呼ばれているしょんべん横丁の焼き鳥屋に落ち着いた。狭くて急な階段で二階に上がり、冷たいビールを飲んだ。焼き鳥の盛り合わせと、冷やしトマトか何かを頼んだように思う。

当時、僕は確かにMBAに興味があった。より正確に言えば、僕は海外に行くことに興味があり、その手段、あるいは正当化としてMBAはアリだなと思っていた。五年勤めた会社を辞めたあと、細々と個人で仕事をしながら、英語を勉強していた。語学留学では物足りなかったが、ワーキングホリデーやボランティアをするにはキャリア的な余裕がなかった。海外でインターンシップをしてみませんか、という類のホームページもいくつかチェックしていたし、南米でスペイン語を学んだあと半年放浪するというプランも練っていた。要は、いい歳になってから、学生時代にできなかった「自分探し」をしたかったのだ。

MBAを取りに行く、というオプションは、例えば一年間バックパッカーをしながら独学で英語をマスターするという選択肢(これも本気で考えていたのだ)よりもずいぶん真っ当だった。ただ、ハードルが高くて怖じ気づいていた。MBA受験者や取得者のホームページを見ると、みんな難しい顔をしてMBAのROIについて議論していた。会社勤めをしていたあいだに出会ったMBAホルダーは、ほとんどみんな鼻が高くて小難しいことばかり言う嫌味な人たちだった。僕はそんな風にはなりたくなかった。そのために受験勉強したり、借金したりするのもためらわれた。

結局、MBA取ってどうだったのか、と僕は友人に尋ねた。「すっごい良かったよ。英語もフランス語も喋れるようになったし、スチュワーデスともいっぱい合コンやったよ」というのが彼の答えだった。彼は口が達者で、昔から何事も器用だった。才能もあり、しかも家が金持ちなので、僕は多少コンプレックスを感じていた。そんな彼が、こんなアホみたいな理由でMBAを語るのを聞いて、勇気が湧いた。なんだ、MBAホルダーって言ったって、けっこうちょろいじゃん。

この日から、僕は真剣に受験勉強を始めた。

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